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[ハローサマー・グッドバイ]恋愛系SFの傑作って聞いていたのに………


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「恋愛系SFの傑作って聞いていたのに……」
そう思って読み始めた『ハローサマー・グッドバイ』は、想像していた“恋愛SF”とはまったく違う体験をくれました。
穏やかな少年のひと夏、淡い初恋、友情と嫉妬、そして戦争の影。
けれど、その静けさの奥には、世界そのものを覆す“何か”が潜んでいます。

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あらすじ

戦争の影が次第に深まるなか、港町の少女ブラウンアイズと再会を果たす。
ぼくはこの少女を一生忘れない。惑星をゆるがす時が来ようとも……少年のひと夏を描いた、SF恋愛小説の最高峰。

マイケル・コーニの傑作SF『ハローサマー・グッドバイ』は、静かな終末と初恋の痛みを描く、叙情的な青春SF小説です。
舞台は、二つの大国――アスタとエルト――が戦争を続ける世界
その片隅で、エルトの首都アリカに暮らす少年ドローヴは、冷えきった家庭の空気の中でどこか現実から距離を置いて生きています。

ある夏、両親に連れられ、戦火を離れた港町パラークシへと向かったドローヴ。
行きたくもない旅だったはずが、そこには彼が密かに想いを寄せる少女――ブラウンアイズがいた。
再会を胸に、彼は母が紹介した少年ウルフとともに小型帆船に乗り出す。
だが、その航海は思いがけない形で彼を未知の世界の扉へと導いていく。

蒸気と氷、恋と死、そして夏と冬。
この惑星では、“寒さ”が恐怖と死の象徴であり、温もりこそが人間らしさの証だった。
ドローヴが辿る旅は、やがて世界そのものの秘密へと触れていく——。

世界観を感じるための用語解説

私が読んでいて、独特の生物や世界観が表現されていたのでまとめます。

ラックス(Lax)

ラックスは、太陽「フュー」とともに惑星を公転する副星です。
本来なら昼夜をもたらすはずの天体が、むしろ「冷気」や「死」を象徴する存在として恐れられています。
そのため、作中の社会では「寒さ=死のイメージ」と強く結びついており、「凍える」「寒い」といった言葉自体が罵倒語として使われます。
中でも「ラックス」は、最上級の罵り言葉として扱われ、他者を拒絶する象徴的な言葉になっています。

グルーム(Gloom)

惑星の気候サイクルの中で、海がフューの熱で蒸発し、粘性のある流体となる季節現象
通常の船は進めなくなり、代わりに「グルームスキマー」と呼ばれる特殊な平底船が使われます。
この「グルーム」は、自然のリズムが人間の営みを左右するという本作の主題を体現しています。

 ロリン(Lorin)

ロリンは、精神感応(テレパシー)能力を持つとされる小型の哺乳類
作中では、心を読む・感情を感じ取るなど、人間の内面世界の拡張を象徴しています。
一方で、その存在が科学的に証明されていない点から、信仰と理性、現実と幻想の境界を探るテーマにも関わっています。

氷魔(アイスデビル)

湖や池に棲む、水面を凍らせて獲物を捕らえる生物
小型種は「氷小魔(アイスゴブリン)」と呼ばれ、ガラス瓶に入れて飼育できるほど身近な存在でもあります。
しかし、その生態は「凍結=死」のイメージと結びつき、人間の恐怖や支配欲の象徴として描かれています。

作品のおすすめポイント・感想

世界観の完成度と詩的な空気

この作品の魅力のひとつは、異星の文化や気候、言葉の感情的な意味づけが非常に緻密であることです。
「寒さ=死」「凍える=罵倒語」など、常識が反転した世界設定が物語の根底に流れています。
しかし、説明的ではなく、少年の感情の揺れを通して自然に描かれるため、
読者は知らず知らずのうちに異世界の価値観に浸っていくことになります。
SFでありながら詩のように静かで、淡い光に包まれたような読書体験が味わえます。

繊細な青春描写と夏のノスタルジー

ドローヴとブラウンアイズ、ウルフたちとの関係は、
誰もが一度は経験した“夏の終わりの感情”を思い起こさせます。
友情と嫉妬、恋と孤独、そして子どもから大人へ変わる瞬間。
この物語の“青春”は甘美でありながら、
どこか取り返しのつかない哀しみを含んでいます。
読むたびに「失われた季節」を思い出すような、
心に残る切なさがこの作品の核です。

終盤の衝撃

SF作品には終盤でどんでん返しをするような、常人では予想もできないような展開になることあります。

この作品も終盤の詰め込みがすごいです。

この作品のタチが悪いところは大部分が少年少女の冒険譚や恋愛という王道のストーリーで展開されることです。

そこからのラストなので温度差が非常にあります。

作品情報

作品情報を以下にまとめます。

一度は絶版になったものの2008年に再販されています。

タイトル: ハローサマー・グッドバイ(Hello Summer, Goodbye
著者: マイケル・コーニ(Michael G. Coney)
初版刊行: 1975年(イギリス)

 邦訳版

サンリオSF文庫版

  • 発行:1980年
  • 訳者:千葉薫
  • 出版:サンリオSF文庫(絶版)

河出文庫版

  • 発行:2008年
  • 訳者:山岸真

続編に「パラークシの記憶」という作品があります。

まだ読んでいないのでいつか読んでみたいと思います.

マイクル・コーニ(Michael Greatrex Coney, 1932–2005)

イギリス出身のSF作家。
第二次世界大戦後の世代に属し、人間の心の繊細な揺らぎや、社会の中での孤独を描く作風で知られています。
作中で描かれるのは、宇宙や技術の壮大なスペクタクルではなく、
その中で翻弄されるごく小さな人間の感情
ハードSF全盛期の1970年代にあって、彼の作品は異質な静けさを放っています。

名言

自分が印象に残った文章をネタバレしない程度に5つ選んでみました。

・フュー、凍えてしまいます。暖めてください………お助けください

・結晶化の際のひびはもう消え湖はひとつの同質の固まりとなった。ただどこかに、あの輝きのしたのどこかに、アイス・デビルが潜んでいるのだ。

・あたしたちに何も起こらなかったなんて誰にも言えないわよね?

・我々の作戦の性質について気がついてこの計画を危うくした。だから抹殺されなければならなかったのだ。

・新しい太陽の下でぼくにほほ笑みかけ、相変わらず新しいぼくらの愛を示してキスをしてくれる。もうすぐだ。この眠りには記憶がないのだから。

まとめ

『ハローサマー・グッドバイ』は、“夏の終わり”という言葉が、これほど切なく響く作品は他にないそんな小説です。

静かに流れる物語の裏で、文明の終焉と個人の成長が密かに重なり合い

恋愛小説として読んでもよし、SFとして読んでもよし、
そして「世界の終わり」を詩のように味わうのもよし。
読む人の心境によって、全く違う顔を見せる——そんな作品です。

ネットの評価

タイトルや装画からはまったく想像できない内容でしたが、心に残るすばらしいSF小説でした。前半はやや退屈、最後がえええ?という急展開で、賛否が分かれそうではありますが。
読み出したらあっという間に読み切りました。 主要人物も多くなく、冒頭の世界紹介から展開、ラブストーリーから戦争へと話を広げて、最後はSFの王道で締める、という「SFフルコース」とも言えるべき作品です。
重めのディストピア的な世界観を描きながらも、どこか爽やかで優しい余韻が残る、不思議な魅力のある物語でした。

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