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[マイナスゼロ]昭和の空気感を鮮やかに描く、初心者でも読みやすいタイムトラベルSF


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日本SFの金字塔と名高い、広瀬正の『マイナス・ゼロ』。舞台は昭和20年5月、東京空襲の混乱の中。18年後に同じ場所で出会うという謎の遺言をめぐり、時を超えた物語が始まります。タイムトラベルものの醍醐味を、戦前・戦後の日本というリアルな背景とともに描き出した本作は、SF初心者でもぐいぐい読める名作。時間旅行の精密なロジックと、時代の空気感、人間ドラマが交錯する『マイナス・ゼロ』の世界に、あなたも浸ってみませんか?

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あらすじ

戦時中に隣人と交わした約束。18年後にその約束を果たそうとして、主人公が見たものは? 日本語で書かれたタイムトラベル小説の最高峰といわれる名作が大きな活字で登場。

昭和20年5月26日未明、東京の空襲の中、世田谷の梅ヶ丘に疎開していた中学2年生の浜田俊夫は、隣家の伊沢先生の火災に巻き込まれる。伊沢先生から「18年後、同じ場所に来てほしい」という謎めいた遺言を託される。

そして18年後の昭和38年同日同時刻、俊夫は旧伊沢邸跡を訪れる。そこで出会ったのは、空襲の夜から行方不明だった伊沢先生の娘・啓子だった。驚くべきことに、彼女は18年前の姿のままだった。実は空襲の晩、伊沢家の研究室にあった灰緑色の巨大な箱(タイムマシン)に啓子が入っていたのだという。

啓子が気づかぬ間に過ごしていた18年。俊夫と啓子は、タイムマシンの仕組みと伊沢先生の研究ノートを手がかりに調査を進める。ノートには、昭和9年に伊沢先生を救うために2人でタイムマシンに乗る計画が記されていた。しかし、俊夫は誤ってひとりだけでタイムマシンに入り、意図せず昭和7年に到着してしまう。

タイムマシンはアクシデントで俊夫を残し現代に戻ってしまい、俊夫は戦前の日本に取り残される。彼は持っていた昭和38年の紙幣や未来の知識を活かしつつ、伊沢先生がタイムマシンで現れるはずの昭和9年まで生き延びようと奮闘する。しかし、時を超えた運命の歯車は思わぬ方向へと回り始めるのだった――。

作品のおすすめポイント

1. 日本SF屈指のタイムトラベル小説

『マイナス・ゼロ』は、日本SF界においてタイムトラベル小説の金字塔と称される作品です。舞台は昭和20年、東京空襲という史実に根ざした背景を起点に、時間を超えた物語が展開します。

この作品の魅力は、精密な時間設定とパラドックス構造にあります。タイムマシンを巡る物語では「なぜこの日なのか」「どのようにして時間移動が行われるのか」といった科学的好奇心を刺激しつつ、時間移動による“ズレ”や“喪失感”を理詰めで描きます。登場人物の運命は、偶然ではなく緻密な時間旅行のロジックの上に成り立ち、その仕組みを知るほど物語の深みが増すのです。

日本SFの中でこれほどまでに**「時間」そのものを真正面から描いた作品**は珍しく、読み進めるうちに「時間とは何か」「運命は変えられるのか」という普遍的な問いに心を揺さぶられます。

 2. 戦前・戦後の日本の空気感を感じたい方に

『マイナス・ゼロ』は、ただのSFではなく、昭和初期から戦後にかけての日本を細部までリアルに描き出した作品です。物語は、東京空襲の混乱、焼け落ちる街、戦中の疎開生活から始まります。そこには、戦争という非日常と、それでも日常を生きる人々の姿が描かれ、読む者にその時代の息遣いを伝えます。

そして物語の中盤以降、主人公の俊夫は過去(昭和7年)に取り残され、戦前の東京を生きることになります。昭和初期の商店街、喫茶店、新聞の紙面、街の雰囲気……これらが生き生きと描写されることで、まるで読者自身がタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。

この作品を通じて、戦前の日本にあった人間関係、価値観、そして時代の空気を体感できます。単なる懐古趣味ではなく、「あの時代を生きることとはどういうことだったのか」という普遍的なテーマを感じ取れるのです。

 3. SF初心者にも読みやすい

『マイナス・ゼロ』は、理屈っぽいSFが苦手な人にもおすすめできる作品です。タイムトラベルという複雑な設定を扱いながらも、物語は決して専門用語や小難しい理論に偏らず、誰にでも理解しやすい語り口で進行します。

また、主人公の俊夫の視点で語られるため、読者は彼と一緒に驚き、悩み、決断していきます。青春小説としても楽しめる要素が満載で、戦前・戦後の日本というリアルな背景に支えられた人間ドラマが、SF設定の「難しさ」をやわらげています。

加えて、広瀬正の文章は、理系的な発想を感じさせつつも決して堅苦しくなく、どこか温かみを感じさせます。そのため、SFに馴染みのない読者でも、すっと物語に入っていけるのです。

マイナスゼロの作品情報

作品名:マイナス・ゼロ
著者:広瀬正
発表年:1970年(『小説現代』連載開始、単行本は1970年講談社より刊行)
出版社:講談社(初版)、現在は講談社文庫などから刊行
ジャンル:SF小説・タイムトラベル

広瀬正

生没年:1924年6月12日 – 1972年5月18日(47歳没)
出身地:東京都

広瀬正は、東京生まれの作家で、戦後の日本SF黎明期を支えた重要人物の一人です。

学生時代から数学に興味を持ち、大学では数学を専攻。

戦中・戦後を通じて、数学教師や編集者(出版社勤務)として働きつつ、小説を書き始めました。

作家としては比較的遅咲きで、40代に入ってから本格的にデビューしました。

ネットの評価

広瀬正の不朽の名作。昭和ノスタルジー。夭折が惜しい。
今となっては若干古臭く、先の展開も読めてしまうのは仕方ないところ。
昔の小説とは思えない、偶然見かけて一気に引き込まれて最後まで見てしまった映画のような

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