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[横浜駅SF]横浜駅が増殖するふざけた本格SF作品


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本州のほとんどを覆い尽くすまで自己増殖を続けた「横浜駅」。Suikaが身分証となり、改札が不正者を排除する世界で、ひとりの青年が“駅の中”へと足を踏み入れる――。

『横浜駅SF』は、一見ふざけているようで、驚くほど緻密に設計された本格ハードSF
日常に潜む「駅」という存在をここまで膨らませた発想力と、その先に見えるディストピアのリアルさに、あなたはきっと圧倒されるはずです。

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あらすじ

この「18きっぷ」で、人類を<横浜駅>の支配から解放してほしい。

日本は自己増殖する<横浜駅>に支配されていた。脳に埋め込んだSuikaで管理されるエキナカ社会。その外で廃棄物を頼りに暮らすヒロトは、エキナカを追放されたある男から人類の未来を担う“使命”を課され……

200年前に起きた「冬戦争」の後、本州の大地は自己増殖を続ける巨大構造物・横浜駅にほぼ覆い尽くされていた。外の世界で暮らしていた青年・三島ヒロトは、謎の男から"18きっぷ"と呼ばれる駅構内への通行許可を受け取り、初めて**駅の内部(エキナカ)**へ足を踏み入れる。

中で出会うのは、改札に挑む地下組織「キセル同盟」、北の地から来た工作員、そして横浜駅の起源と秘密を知る者たち。複雑に絡み合う利害のなか、ヒロトはただの観察者ではいられなくなっていく。

やがて彼は、駅の終焉に関わる重大な選択を迫られ、そして――
駅のない未来を目指して、新たな一歩を踏み出す。

作品のおすすめポイント

作品のおすすめポイントを紹介します。

駅を舞台にした唯一の世界観

200年ものあいだ自己増殖を続けた横浜駅が、本州全土を覆ってしまった未来。駅構内を“エキナカ”、駅外を“エキソト”と呼ぶ世界では、Suikaが身分証であり、自動改札が敵兵器
もはや人間より駅のほうが偉い、そんな異常だけどリアルな管理社会が徹底して描かれます。
この「駅そのものが世界」の設定は、日本SF史上でも異色のアイデアといえるでしょう。

ふざけたようで本格派

一見すると「駅が日本を覆う? 改札が敵? それってギャグSF?」と感じるかもしれません。ですが、『横浜駅SF』の世界は細部まで緻密に作り込まれた本格ハードSF。そのバカっぽさの裏に、冷酷な合理性とシステム暴走の恐怖が潜んでいます。

「18きっぷで駅に潜入?」「Kitaca OS搭載の子供型アンドロイド?」「非常停止ボタンで遺伝界を反転?」
そのネーミングからは一見パロディやギャグのように思えるかもしれません。でも、その裏には量子遺伝界、自己複製AI、戦後インフラの再利用など、ハードSF顔負けの理詰めな設定が隠されています。

駅を舞台にしたジョークのような発想が、読めば読むほど深く、切実に感じられる――
それが『横浜駅SF』の真の魅力です。

SFネタが満載

本作では、章の名前や登場する言葉にSFワードが登場します。

以下にその例をまとめます。

42番出口

📘 『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス著)
イギリス発のユーモアSF小説シリーズ。地球が突然爆破されたことから始まる、宇宙規模のドタバタ旅行記。ブラックユーモアと皮肉、ナンセンスな科学設定でカルト的な人気を誇ります。

■ 第1章「時計じかけのスイカ」

📘**『時計じかけのオレンジ』(アントニイ・バージェス)**
1962年発表のディストピア小説。主人公アレックスは若者たちの暴力と快楽に生きる少年。国家による“再教育プログラム”を通して、自由意志と道徳、制御された社会の問題を描く。スタンリー・キューブリックによる映画化も有名。

■ 第2章「構内二万営業キロ」

📘**『海底二万里(海底二万海里)』(ジュール・ヴェルヌ)**
1870年に発表された海洋SFの金字塔。謎の潜水艦「ノーチラス号」とその艦長ネモのもと、深海の未知なる世界を旅する冒険譚。自然科学と空想科学の融合で、サイエンスフィクションの原型とされる。

■ 第3章「アンドロイドは電化路線の夢を見るか?」

📘**『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック)**
1968年発表。核戦争後の荒廃した地球で、人間と見分けがつかないアンドロイドを狩る賞金稼ぎが主人公。**人間とは何か? 意識とは?**という問いが根底にある哲学的SF。映画『ブレードランナー』の原作。

■ 第4章「あるいは駅でいっぱいの海」

📘**『あるいは牡蛎でいっぱいの海』(アブラム・デイヴィッドスン)**
ヒューゴー賞受賞作(1958年)。突如として世界中に牡蠣が大量発生する不条理でシュールな短編。合理的に説明できない現象に対する人間の反応を描く風刺SF。
また、この旧題をもとにした筒井康隆の短編集『あるいは酒でいっぱいの海』もタイトルの元ネタとされる。

■ 第5章「増築主の掟」

📘**『造物主の掟』(ジェイムズ・P・ホーガン)**
1979年発表。人類が宇宙で出会った異星文明と接触するなかで、進化・創造・神の存在にまつわる深いテーマを扱うハードSF。緻密な科学考証と哲学的問いが融合したホーガンの代表作。

■ 第6章「改札器官」

📘**『虐殺器官』(伊藤計劃)**
2007年発表。近未来の監視社会を舞台に、言語と暴力、国家権力の関係を描いた日本SFの傑作。言語が人間の行動を左右するという“言語理論”を軸に、倫理や自由のあり方を問い直すダークなミリタリーSF。

続編・漫画

横浜駅SFには続編である『横浜駅SF 全国版』と漫画版があります。

あらすじ

駅監視システムとの情報戦に挑む『京都編』、横浜駅の崩壊と再構築を観測する『群馬編』、駅の侵食から逃れた代償に暴力が許容される『熊本編』、消息不明になった北の工作員の行方を追う『岩手編』を収録。

本編で登場したキセル同盟や各地のJRが掘り下げられています。

しかし、一番の謎のJR北日本のユキエさんの正体については言及されておらず、まだ続編がありそうな感じがしました。

本編が好きな方はこちらもおすすめですが、謎が残る展開ではあるのですっきりはしません。

漫画版

漫画版もあります。

3巻と短いのでサクッと世界観を味わいたい方にはおすすめです。

  • 原作:柞刈湯葉(いすかり・ゆば)
  • 漫画作画:新川権兵衛(しんかわ・ごんべえ)
  • 連載開始:2019年
  • 掲載媒体:ヤングエースUP(KADOKAWAのWebコミックサイト)
  • 出版社:KADOKAWA
  • 単行本巻数:全3巻(完結)

作品情報

2015年にネット小説としてtwitter上で発表され、2016年6月に第1回カクヨムweb小説コンテストSF部門大賞を受賞しました。

  • 出版年:2016年(単行本:2016年、文庫版:2018年)
  • 出版社:KADOKAWA(角川書店)

2017年の第38回日本SF大賞で最終候補作

『本の雑誌』が選ぶ「2017年上半期エンターテインメント・ベスト10」でも第8位にランクイン

『このライトノベルがすごい!』では2018年版で単行本・ノベルス部門第8位(新作1位)にランクイン

『SFが読みたい! 2018年版』ベストSF国内篇では6位を獲得し

作者:柞刈湯葉(いすかり・ゆば)

  • 出生地:福島県出身
  • 職業:小説家・ライター・研究者(農学博士)

現在は専業作家らしいです。

ネットの評価

あらすじだけ読むとおバカSFのようだが、実際はかなり練りこまれた本格SF。ディストピア小説にもかかわらず、雰囲気が明るいのは、作中アイテムのネーミング・センスが楽しく、18きっぷやN700系、非常停止ボタンなどが笑わせてくれるからだろう。
まずはその発想に、そして読み進めるごとに卓越した舞台構築と確かな文章力により描かれる異質な世界観に圧倒されます。非常に面白い!
「自己増殖して本州を覆い尽くすほどになった横浜駅」という荒唐無稽なアイデアに見えて何もかもにちゃんと理屈があって、真実が明らかになるたび、おお、と唸らされます。

まとめ

『横浜駅SF』は、その突飛なアイデアに反して、ロジカルで骨太なSF世界が緻密に描かれた異色作です。
「駅」という誰もが知る日常の風景をベースにしながら、ここまで壮大で不気味な未来像を描けるのか――と驚かされます。

笑いながら読み始めたつもりが、気がつけば人間とシステムの関係、技術の暴走、管理社会の不気味さにゾッとしている。
そんな“ギャグと真面目の境界線”を滑らかに超えてくる作品です。

SF初心者にも読みやすく、読み終わったあとには現実の駅がちょっと怖く見えてくるかもしれません
まだ読んでいない人は、ぜひこの奇妙な旅に出てみてください。

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