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[きまぐれ星のメモ]星新一のエッセイはすごい


ショートショートで有名な星新一先生のエッセイ「きまぐれ星」のメモを読んで、とても面白かったのでその中で気になった文章を引用しつつ感想・レビューをしていきたいと思います。

ショートショートと同じく一つの話題が数ページで終わるので寝る前や電車の待ち時間などにおすすめです。

書籍情報

締切りが迫ると、一つの発想を得るためだけに、八時間ほど書斎にとじこもる。無から有をうみだすインスピレーションなど、そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない―(「創作の経路」より)。ショートショートの神様は、ふだん何を考えて、どのようにアイディアを膨らませているのか?海外旅行で見聞きしたことから子供の頃の思い出、「あとがき論」まで、10年間かけて書きつづった100編あまりを収録した名エッセイ集。

きまぐれ星のメモ
  • 発売日 ‏ : ‎ 2012/11/22(復刊)
  • 文庫 ‏ : ‎ 362ページ

レビュー

眼鏡について

右の目が近視になりかかったことを知った私はひそかな計画を立てた。ひとつ、この度をもっと進めてみようというのである。………徴兵検査で不合格になってやろうというのである。p31

きまぐれ星のメモ

この話を読んだとき、私はとても笑ってしまった。自分が戦地に赴くかどうかの大事、しかし、全く重くなく淡々と過去の笑い話として紹介している。

こういう柔軟な発想というか、とんちな発想ができるからこそ面白い話が書けるんだろう。

創作の経路

………小説を書くのがこんなにも苦しい作業とは、予想もしていなかった。………みずから課した制約がいくつかある。その第一、性行為と殺人シーンを描写しない。………第二、………時事風俗を扱わない。………第三、前衛的な手法を扱わない。p69

きまぐれ星のメモ

星新一は生涯に1001篇のショートショートを書いたと知られている。しかし、その創作が簡単ではないことが、このエッセイには何度も登場する。

それなのに、さらに制約を課しているのはなぜだろうか。エッセイには気が乗らないとか雑然となってしまうとか話しているが、その実は本人にしかわからない。しかし、制約やルールがあることで、逆に自由な発想ができるようになるのだろうか、そこらへんは研究の余地がありそうだ。

執筆以外は

アイデアというと、天来の啓示の如く出てくると思っている人がいるが、私に言わせれば、得られるものでなく、育てるものである。雑多な思い付きを整理し、選択肢手を加えることに精神を集中してつづければ、何かが出てくるのは確実である。p85

きまぐれ星のメモ

多作な人の頭の中はどうなっているのか、とても興味がある。具体的には、星新一、手塚治虫、アイザックアシモフあたりだ。

この本を読もうと思ったきっかけの一つも、アイデアの発想について何か学べるのではないかと思ったからである。

「整理と選択」、これは私がはまっている情報カードに似ている考え方ともいえる。このほかのエッセイもあるので、そのノウハウが少しでも学べたらうれしい。

過飽和

作品を書くためには、頭のなかをもやもやしたもので過飽和にするのが先決だと言いたいのである。それなくしては、いかにヒントの林にかこまれていても、作品は生まれてこないのである。p89

きまぐれ星のメモ

ある事物をみて、考えることは人によって違う。その事物がヒントの林だった場合、過飽和状態の人は作品の発想を得て、何も考えていない人は思いつかないということであろう。

その過飽和状態については機密事項として明かされていない。残念ですが、何か得ることはありそう。

ペニシリン

コウジ菌を液体内培養し、澱粉を分解する酵素ジャスターゼを生産することはできないか、というものである。p141

きまぐれ星のメモ

このエッセイの中では、こういう学問の体験談が登場する。こういう体験が性格のひとつに影響をおよぼしているとも書かれていて読んでいて面白い。

百年

………今後百年以内に起こりそうな不祥事をいくつか列記することにする。

………百歳以上の老人集団が世界を支配し………。

………起きている時はもちろん、眠っている時も、世界じゅうくまなくコマーシャルが叫び続けている。

世のスピード化についてゆけず、外界との接触を断ち、自分の殻に閉じこもる自閉症患者の激増。

性転換が大流行し、男はみな女となり、女はみな男となり、ふたたび徹底した男尊女卑の時代を迎えるp201

きまぐれ星のメモ

面白いものをいくつか抽出してみました。

時事風俗を描いたリアル路線の近未来小説も書いてほしいと思わせるような、未来予測だと思いませんか。この文章を読んだとき、買えるだけ他のエッセイも注文しました。

未来への障害

………頭脳の働きには一円も払う必要がないという考えの持ち主なのであろう。このような調子なのだから、日本の未来はあまり楽観を許さない。p236

きまぐれ星のメモ

近年、人材の国外流出が話題になることがある。頭脳や技術に対して、お金を渋る人が多いのは昔からなのだろうか。今より、昔にかかれたエッセイにこれが書かれていることは何か考え深い。

官僚について

官吏は永久に安泰である。電子計算機が発達しても、そのための官庁が増えるだけだ。まったくいい商売だ。p254

きまぐれ星のメモ

デジタル庁ができましたね。まるで現在のことを知っていて書いたような皮肉。このときから体質はずっと同じなのでしょう。さすがというか、ため息がでるというか………。

中学のころ

………英米との戦いがはじまった。そのとき私は考えた。こうなると、高校の入試科目に英語はなくなるのであろうと。………そのおかげで、私は四年修了で高校に入学できた。p340

きまぐれ星のメモ

発想がすごいと思わされるエピソードですね。なんというか、要領がいい人の最上級というか。

星先生は謙遜しているが、やっぱり天才だとか思います。

澄んだ時代

戦争のさなかであった。この頃のことを、暗く重苦しい時代、と片付けている人が多いようだが、わつぃにとってはそうではなかった。私のみならず同年代のものは、おそらく同じような記憶を持っているのではないだろうか。p342

きまぐれ星のメモ

戦時中や戦後の体験談も数多く登する。もちろん私は、戦争を体験していないし、テレビや書籍から得る戦争の体験は非常に暗いものばかりだ。しかし、このエッセイででてくる体験談はどこか楽観的で明るいものが多い。そのことに少し驚いた。

最後に

私が読んでいて印象に残った文章を引用して紹介してみました。星新一のエッセイは一つの話題がすぐ終わるが、中身が濃く、昔の博覧強記な知識人という感じがしてすごく楽しいです。

ページ数も362ページあり、最近の薄い自己啓発本なんかより満足感や新しい発見があります。今回めんどくさくて一部しか紹介できていないので、少しでも面白いと感じたら自分で読んでみることをお勧めします。

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